脂肪・再生医療を用いた乳房再建
目次
第2種再生医療を用いた乳房再建
「自家培養脂肪細胞移植」は、乳房の再建、乳房変形、乳房低形成などを治療するための、 患者さまご自身の脂肪細胞を使った医療技術です。あらかじめ準備した培養して増やした脂肪細胞と手術当日に吸引採取した自家脂肪を混ぜ合わせたものを移植します。当院は矢永博子が30年間の細胞治療である再生医療の研究と患者さんの治療をおこなってきた経験を再生医療等特定認定委員会に評価されて、脂肪細胞の再生医療等技術は厚生労働省への「届出」を経て実施され、自家培養脂肪細胞を作成しています。移植時には生きた脂肪細胞を使用し、凍結した細胞は使用していません。生きた脂肪細胞を移植することでより脂肪の生存率が高まります。
当院では2001年から2022年間に自家脂肪移植は、約20年間自家脂肪移植は安全に行われてきました。また、2009年から2022年まで約13年間、すでに97例に自家培養脂肪細胞移植を行ってきました。乳房増大、乳房温存術後、乳がん全滴術後、放射線照射後の症例にも適応しています。
従来の再建法であるインプラント(人工物)を用いた治療法は異物に対するご自身の反応、インプラント製品の問題、将来的に入れ替えが約10〜15年後くらいに必要であることが問題点でした。自家組織(広背筋や腹部皮弁)による再建は体の侵襲(負担)が大きいことや体の他の部位に傷痕ができることや違和感を生じることが問題点でした。また従来の脂肪注入法は脂肪の生着が低く、吸収されたり、しこりや石灰化が生じたりすることが問題点でした。
こうした問題を解決するために再生医療を用いた乳房再建は開発されました。ご自身の脂肪を腹部や大腿からごく少量採取して、体外で脂肪細胞を培養して増やしたのち、ご自身の脂肪組織と混合して、体内へ移植するという新しい治療です。患者さまご自身の脂肪細胞を使うため、異物に対する反応が少なく、培養した脂肪細胞が自家脂肪の生着を助ける役目をするため、従来の脂肪注入移植の定着率は世界的には30〜40%といわれています。
この治療法は脂肪の定着が80%以上になり、治療結果が向上しました。乳房全摘症例もほとんど2回の移植で治療が終了します。胸の大きな方の再建も2回で終了しています。また、両側乳房の再建も行えるようになりました。(術前術後に皮膚や皮下組織の血行を改善するための装置の装着はしていません)
また、体の傷あと(2〜3mm)は最小限になり、手術時間や体の侵襲は従来の自家組織手術より短く少なくなりました。将来的に入れ替えがいらないのも利点です。健側乳房に似た柔らかい乳房が形成されること、また冷たい乳房でなく体温と同じ暖かさの乳房が形成できることが利点です。
当院では、自家培養脂肪細胞移植、自家培養表皮細胞シート移植、自家培養軟骨細胞組織移植、自家培養線維芽細胞注入、自家PRP注入を提供しています。これら5つの再生医療等技術の提供については、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」に基づいて、厚生労働省への届出を行っています。また当院は、特定細胞加工物製造事業者としても、同法に基づいて厚生労働省への届出をしています(施設番号:FC7140009)。日本再生医療学会の再生医療認定医です。矢永博子は長年、約 30 年間にわたり、再生医療の研究と治療に継続して取り組んできました。これらの治療法を継続して行うことにより患者さんに貢献できたことは喜ばしいことです。
細胞加工施設番号: FC7140009
第2種再生医療、自家培養脂肪細胞移植の再生医療提供施設番号:PB7150005
1.自家培養脂肪細胞移植による乳房再建
ご自身の脂肪を腹部や大腿からごく少量採取して、体外で脂肪細胞を培養して増やしたのち、ご自身の脂肪組織と混合して、体内へ移植するという新しい治療です。対象疾患等は、乳がん手術後の乳房欠損、乳房温存術後の乳房変形、乳房低形成、乳房萎縮、胸郭の変形を伴う漏斗胸、顔面萎縮等の皮下脂肪や皮下組織の欠損、変形、または低形成に適応できます。本治療は自家培養脂肪細胞とご自身の脂肪のコンビネーションで脂肪の生着率が向上し、治療成績が良好になるという治療法です。従来の脂肪注入に比べて生着率が80%以上と安定しています。石灰化や嚢腫などの形成はほとんどみられません。健側乳房に似た柔らかい乳房が形成されること、また冷たい乳房でなく体温と同じ暖かさの乳房が形成できることが利点です。(2015年4月8日 日本形成外科学会総会 京都シンポジウム・2016年10月26日国際美容外科学会 再生医療セッション)
2.これまでの乳房再建治療との比較、それぞれの利点と欠点
- インプラントを用いた乳房再建
インプラントを用いた乳房再建は2年前に保険適応になり、多くの乳がん患者さんがより乳房再建手術を受けやすくなったということは素晴らしいことでした。インプラントの利点は手術時間が短く、体への負担が少ないこと、入院期間が短く、社会復帰が早いことです。また比較的乳房形態も得やすいことです。しかしインプラントは人工物ですので、以下のような欠点もあります。①破損
感染、外傷により破損の危険性や経年的変化によるバッグの劣化による破損の可能性があります
②被膜拘縮
インプラントの周りに膜ができて厚く硬くなり収縮することにより変形や痛みを生じる
③違和感
インプラントはあなたの身体にとっては異物なので、異物に対するご自身の反応(違和感等)があること
④インプラント
人工物で血が通っていないため、冷たく感じます。
⑤入れ替えの必要性
現在、医療目的で体内留置に用いられている様々な人工物の耐久性を参考にして考えると約10年で入れ替えを検討する必要があります
⑥乳房形態
経年性変化に対応できないため、健側乳房と差がでてくるなどです。 - 皮弁・筋皮弁
皮弁・筋皮弁は自家組織なので柔らかく、暖かみもあります。1度手術をすると入れ替えの必要はありません。乳房形態は多少経年性変化に対応できます。しかし以下のような欠点もあります。ドナーの採取部に傷あとや違和感が残ることや、手術侵襲が大きいことが問題でした。自家組織による再建は筋肉を採取する体の他の部位に長い傷跡ができ、その部分に拘縮(ひきつれ)、違和感や痛みなどが生じる可能性があります。手術時間も長くなり出血量も多く、体に対する手術侵襲が大きいため周術期の全身・局所合併症の発生率はその他の方法に比べてより高くなります。入院期間が3週間から約1カ月かかります。また社会復帰に期間がかかります。 - 脂肪注入移植
自家脂肪は採取したものをそのまま大量に注入すると生着が不良で、しこり、嚢腫、脂肪壊死、石灰化等を生じるなどの問題があります。ご自分の脂肪注入移植単独は大量に注入すると生着が不良で吸収され、嚢腫形成(嚢腫を形成すると硬い袋ができて中の脂肪が死んでしまいます)、脂肪壊死、石灰化等を生じるなどの問題があります。
3.脂肪幹細胞移植との違いは?
脂肪幹細胞は多分化能があり、脂肪細胞やその他の細胞に分化する能力を有していると報告されています(Human Adipose-derived stem cell :current clinical applications, Plastic Reconstr Surg 2012)ので、移植された細胞が脂肪細胞以外の細胞になる可能性があります。他方、自家培養脂肪細胞は多分化能がなく成熟した脂肪細胞なので脂肪になります。脂肪幹細胞を作製するときに100g以上の脂肪が必要で、その後酵素処理抽出した幹細胞と脂肪を混ぜて移植します。脂肪が多い方はよいのですが、脂肪が少ない方はこの方法が難しい場合があります。
また、脂肪幹細胞は多分化能があり、脂肪細胞やその他の細胞(軟骨細胞、骨細胞、内皮細胞、神経細胞、肝細胞、筋細胞など)に分化する能力を有していると報告されています(Human Adipose-derived stem cell :current clinical applications, Plastic Reconstr Surg 2012)ので、移植された細胞が脂肪細胞以外の細胞になる可能性があります。他方、自家培養脂肪細胞は多分化能がなく成熟した脂肪細胞なので脂肪になります。
4.自家培養脂肪細胞移植による乳房再建の利点と欠点
本治療は自家培養脂肪細胞細胞とご自身の脂肪のコンビネーションで脂肪の生着が向上し、治療成績が良好になるという新しい治療法です。この治療の利点は脂肪の定着率は80%以上で、全摘症例でも2回の移植で治療が終了します(痩せた方で3回移植した方が2例おられます)。
この治療の意義は従来の方法と比べると異物に対する反応がなく、最小限の犠牲で、ある程度自由な量のご自分の自家培養脂肪細胞を移植しうることだと考えます。欠点としては培養期間を要することと、脂肪がほとんど無いくらいに痩せておられる方はこの手術を受けるのが難しいです。
5.自家培養脂肪細胞の治療の流れ
- 術前診断
ウィルス検査結果が「陽性」の方は本治療を受けることができません。 - 脂肪の採取
日帰り手術で行います。1日で処置は終わるのでその日に帰れます。移植するために脂肪を採取する必要があります。脂肪採取は外来で、日帰りで行います。脂肪の採取は局所麻酔下で行います。通常、腹部又は大腿部から少量の脂肪を注射器で吸引採取します。採取のために約2~3mmくらいの傷はできますが、これが、外観上目立つことはないと考えます。脂肪採取と同じ日に培養に必要なご自身の血液を採取します。脂肪採取部の傷の処置はご自身で行っていただいています。数日で傷はふさがります。 - 培養期間
脂肪採取から自家培養脂肪細胞移植手術までには約1ヶ月程度の培養の期間が必要です。培養に時間がかかるケースもあります。また、せっかくいただいた脂肪から移植に適した細胞が育たない場合は、もう一度脂肪を採取する可能性もありますが、これまではそのような症例はありませんでした。ヒトの組織を培養するということは、図面を引いてモノや建物を作ることとはかなり異なります。計画・予定通りにいかないこともあります。まずこのことをご理解ください。植物に水や栄養を与え、お日様にあたるように大切にして気遣いながら素敵な草花を育てていくような過程をイメージしてください。
<脂肪細胞の培養方法>
培養は脂肪組織を酵素処理し、脂肪細胞を分離した後、培養に適した栄養液の中で行われます。当院では主としてご自身の血液から採取した自己血清を用いています。また、ご自身が希望した場合や自己血清が採取できない場合にウシ胎児の血清(FCS)が含まれた溶液を用いる方法もあります。 - 移植手術
日帰り手術で行いますが、ホテルに3〜4日滞在していただきます。他の乳房の手術に比べて痛みは少ないので入院の必要性はありませんが、希望されれば入院(自費)も可能です。この間は感染予防のための抗生剤点滴や術後創部の処置を行います。実際の患部への移植手術は、局所麻酔と全身麻酔との併用で行います。移植法は注射器を用いて患部へ注入移植します。本治療は自家培養脂肪細胞とご自身の脂肪のコンビネーションで脂肪の生着が向上し、治療成績が良好になるという治療法です。ですからこのとき、腹部や大腿からご自身の脂肪を再度吸引採取します。その量は患部に移植する量に応じて決められます
- 術後処置と経過
術後は移植部の胸は軽い軟らかいブラジャーを装着します。脂肪採取部は弾性包帯やガードルで1ヶ月間圧迫します。術後経過は患者さんの経過を見て再診をきめます。遠方の方は1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月、その後1年に1回経過をみます。
細胞採取から移植まで(実際の治療の流れ)を図でわかりやすく説明
<よい適応> 自家培養脂肪細胞+自家脂肪
1)乳房全摘症例→1回目は組織拡張器の周りに注入移植し、2回目は組織拡張器を抜去して注入移植します。2回注入が必要です。インプラントが入っている方も手術できます。
2)乳房温存の変形→脂肪を注入して膨らまし、健側に近い乳房を形成する
以下に可能性のあるリスクについて説明致します。
- 術後感染
外科手術はどれも術後感染の可能性がありますが、脂肪は感染にもっとも弱いので注意が必要です。また、患者さんの体表にも常在菌が存在します。予防的には抗生物質の投与を行います。術前から基礎疾患(糖尿病、血液疾患、肝臓病、など感染に対しての抵抗力の弱い病気)を有する場合に多く報告されます。しかしまったく基礎疾患のない方も発生の可能性があり、報告もあります。もし、術後感染を生じた場合は抗生物質の投与を開始し、創部の洗浄等を十分行います。この処置で感染が治まることが多いのです。これまで感染した症例はありません。 - 皮下出血
手術操作により皮下出血を生じることがありますが、約3週間程度で目立たなくなり治癒します。 - 脂肪の吸収
移植された自家培養脂肪細胞は、そこに生着するまでの間に壊死や感染が生じると容易に吸収されてしまいます。また、壊死や感染が起こらなくても、脂肪に限らず自家組織は移植後に吸収される可能性があると報告されていますので、同様に自家培養脂肪細胞も移植後に吸収される可能性があります。 - 脂肪の硬化、石灰沈着
従来、移植した自家脂肪は硬化、石灰沈着することがあると報告されていますので、自家培養脂肪細胞が移植後に線維性又は石灰性の組織に変化する可能性があります。 - その他のリスク
その他に一般的なリスクとして手術や治療に用いる薬に対するアレルギーや麻酔に伴うリスクがあります。また、疾患により合併症が異なる場合もありますので、その場合は備考に追加いたします。
<料金について>
自家培養脂肪細胞+自家脂肪移植
- 乳房温存の場合 約80〜100万円+消費税 1回の手術
脂肪の採取+初期培養費用 約20万円
移植時に、自家培養脂肪細胞移植+脂肪吸引+自家移植手術+全身麻酔 約60〜80万円 - 乳房全摘の場合(2回移植) 約160〜200万円+消費税
脂肪の採取+初期培養費用 約20万円 1回
移植時に自家培養脂肪細胞移植+脂肪吸引+自家移植手術+全身麻酔 約2回分を含む
6.自家脂肪注入を用いた乳房再建(脂肪注入)
自家培養脂肪細胞を用いないご自身の脂肪注入移植もおこなっています。
この場合は下記の条件があります。
- 少量を何回か(2〜3回)に分けて注入する
- 乳房全摘など大量の脂肪が必要な症例には適応できません。
<よい適応>
- インプラントの上の前胸部の凹みや段差の改善
- インプラントのまわりとくに外側に皮下組織が少なく、触ると硬い、
インプラントの形がわかるなどの変形の改善
以下に可能性のあるリスクについて説明致します。
- 術後感染
外科手術はどれも術後感染の可能性がありますが、脂肪は感染にもっとも弱いので注意が必要です。また、患者さんの体表にも常在菌が存在します。予防的には抗生物質の投与を行います。術前から基礎疾患(糖尿病、血液疾患、肝臓病、など感染に対しての抵抗力の弱い病気)を有する場合に多く報告されます。しかしまったく基礎疾患のない方も発生の可能性があり、報告もあります。もし、術後感染を生じた場合は抗生物質の投与を開始し、創部の洗浄等を十分行います。この処置で感染が治まることが多いのです。 - 皮下出血
手術操作により皮下出血を生じることがありますが、約3週間程度で目立たなくなり治癒します。 - 脂肪の吸収
移植された脂肪は、そこに生着するまでの間に壊死や感染が生じると容易に吸収されてしまいます。また、壊死や感染が起こらなくても、脂肪に限らず自家組織は移植後に吸収される可能性があると報告されています。 - 脂肪の硬化、石灰沈着
従来、移植した自家脂肪は硬化、石灰沈着することがあると報告されていますので、移植後に線維性又は石灰性の組織に変化する可能性があります。 - その他のリスク
その他に一般的なリスクとして手術や治療に用いる薬に対するアレルギーや麻酔に伴うリスクがあります。また、疾患により合併症が異なる場合もありますので、その場合は備考に追加いたします。
<料金について>
自家脂肪移植
- インプラント移植後前胸部の凹みや段差 約30万円+消費税
- インプラント移植後前胸部の凹みや段差+外側の薄い部分 約50万円+消費税
- 乳房温存の小範囲の陥凹変形 約30〜50万円+消費税
※最終的には胸の大きさや陥凹変形によりご本人と相談して決めています。
ご希望の方は、下記お申し込みよりご連絡ください。
お申し込みいただきましたら、閲覧可能なアドレスをご案内させていただきます。
*お申し込みいただきました情報は、症例の返信のみで利用いたします。